満足度

前回の『ファスト&スロー(上)』の続きです。

本書も前回同様内容が充実しており、行動経済学の最先端に触れることができる一冊となっています。

バイアスによって意思決定しているぼくたちですが、このバイアスに対して何か打つ手はあるのでしょうか?

ポイント

プロスペクト理論

プロスペクト理論はザックリ言うと次の通りです。

・利得も損失もありうるギャンブルでは損失回避になり、極端にリスク回避的な選択が行われる。

・確実な損失と不確実だがより大きな損失というように、どちらに転んでも悪い目の出るギャンブルでは、感応度の逓減によりリスク追求的になる。

ちょっと難しいですよね。

ではより詳しく見ていきましょう。

損失回避性

トレーダーの方はよくあるでしょうが、利益が出たときのうれしさよりも損をしたときの嫌な気持ちのほうが大きく感じませんか?

その一見不合理な心理は、プロスペクト理論の損失回避性で説明できます。

このように損失をより強く感じてしまう性質は、厳しい自然界を生きる上で必要だったので人が進化の過程で得たものだと考えられています。

期待値が高い場面でも損をすることを考えてエントリーするのをためらってしまうときは、自分の心理はプロスペクト理論の損失回避性によるものではないかということを考えましょう。

そのように客観的に自己を見つめればエントリーすることを恐れませんし、長い目で見ると大きな成果につながります。

感応度逓減性

10万円で買った株が9万円になると損失が1万円になって嫌な気持ちになりますが、株価が5万円になって損失が5倍の5万円になっても当初の嫌な気持ちが5倍になるということはないと思います。

それはプロスペクト理論の感応度逓減性によるものです。

不思議ですよね。損が膨らんでいくのに気持ちは損失のわりには穏やかなんて・・・

もともと超長期で持っておくと決めて買った株なら含み損は気にする必要はないかもしれません。
しかし、トレードをする場合多くの人はそこまで長く持ちません。
ですから損が小さいうちに損失はサンクコストとして損切りしたほうがいいですね。

そうしないと、心は痛まないかもしれませんが、儲けられる場面で儲けられなくなり経済的には大きな損失になります。

後悔

やらずに後悔するよりやって後悔する方がいい

とよく言われますよね。

これは本当なのでしょうか?

ポールはA社の株を持っています。

去年一年間、ポールはB社株に乗り換えようか迷っていましたが、結局そうしないことに決めました。

ところがいまになって、もしA社株を売ってB社株を買っていたら、一二〇〇ドルの利益が得られたはずだとわかりました。   

ジョージはB社の株を持っていたのですが、去年A社株に乗り換えました。

ところがいまになって、もしB社株を持ち続けていたら、一二〇〇ドルの利益が得られたはずだとわかりました。

より深く後悔するのは、二人のうちどちらでしょうか?


結果は明快で、回答者の九二%がジョージだと答え、ポールと答えたのは八%に過ぎなかった。

客観的に見ればどちらも状況は同じなのに、このような結果になるのはとてもおもしろいです。

今回の例でいえば、株を持っているときのデフォルト選択である「売らない」ということをせずに、デフォルトではない「売る」ということをしてしまったことによって強く後悔してしまいました。

つまり、デフォルトと違う行動をして悪い結果が出てしまったときに人はより強い苦痛を味わうことになるわけです。

もし何かをするかどうか迷ったら、デフォルト選択をしたほうが強い後悔をせずにすみやすいということが言えますね。

問題の提示の仕方が考えや選好に不合理な影響を及ぼす

論理的にはまったく同じことでも、記述の仕方によって選好は逆転しうるんです。

被験者を二つのグループに分け、片方には生存率に関するデータを、残り半分には同じことを死亡率で表現したデータを見せた。

手術の短期的な結果に関する記述は、次の通りである。

術後一ヶ月の生存率は90%です
術後一ヶ月の死亡率は10%です

この実験では、手術を選んだ人は、前者(84%)のほうが後者(50パーセント)より圧倒的に多かったという結果が出ました。

これは人を説得ないし納得させるときにものすごく使えますよね。

「もらう」や「生存」といった、人が直感的に好む記述をすると選んでもらう可能性が高まりそうです。

しあわせはお金で買えますか?

しあわせになるためにお金は重要な一つの要素です。

お金がなければ食べるものや着るものが買えませんし、住むところもありません。

それにお金があれば、いろいろなものや経験を買うことができます。

しかし、だからといってお金持ちがしあわせかというとそうでもありません。

それはなぜでしょうか?

考えられる一つの解釈は、所得が増えるほど生活の小さな楽しみを味わう能力が減ってくるのではないか、ということである。

この解釈を支持してくれそうな証拠として、自分は裕福だと思わせるようなプライミング効果を与えると、その学生はチョコレートバーを食べるときにあまりうれしそうな顔をしなくなった、というデータを挙げておこう。

所得が増えるとお金で買える楽しみは増えますが、安上がりなことで楽しむ力を失ってしまうみたいですね。

お金持ちになってもささやかなことに楽しみを見出せる人間でありたいものです。

バイアスに対して何か打つ手はあるか?

さて、バイアスにかかってしまうため不合理な選択をしてしまうぼくたち人間は、バイアスに打ち克つためには何をすべきなのでしょうか?

こうしたバイアスに対して何か打つ手はあるのだろうか。

私たちは、自分自身の判断や意思決定をどうしたら向上させられるだろうか。

(中略)

一言で言えば、よほど努力をしない限り、ほとんど成果は望めない。

経験から言うと、システム1にものを教えても無駄である。

意外な答えが返ってきました。

ここまでどうしようもないものだとは思わなかったのでびっくりです。

システム1に起因するエラーを防ぐ方法は、原理的には簡単である。

認知的な地雷原に自分が入り込んでいる徴候を見落とさず、思考をスローダウンさせ、システム2の応援を求めればよい。

あなたが次にミュラー・リヤー錯視に出くわしたときには、きっとそうするだろう。

両端に羽根のついた一組の図形を見たら、あなたは自分の目を信用せず、定規を取り出す。

知っていれば確かに脳は騙されることはなくなるかもしれません。

しかし多くの場合は知らないことなので、認知的な地雷原に自分が入り込んでいる徴候を見落とさないというのは難しいことです。

言うは易く行うは難しということでしょうか。

まとめ

人間である以上感情を排することは難しいというか、限りなく不可能です。

もし人間に感情を排させることができる理論ないし機械を発明したら、それこそノーベル賞がもらえます。

しかし、プロスペクト理論やその他の人間の不合理な心理を知識として知っていれば、自分が問題に直面したときにその知識を活かして合理的な意思決定をしていくことが可能になるのではないでしょうか。

そして、多くの人が不合理でいる中で自分が合理的でいれば、人生を優位に進めていくことができるはずです。

 

本書を読み始めればほかの本がしばらく読めなくなるくらい、読むのに時間がかかってしまいます。

しかし、読む前と読んだ後では考えが変わらない人はいません。

そのくらい素晴らしい本なので特に投資家や物を売る仕事をしている人、人間の心理について詳しく知りたいという人はぜひ一度読んでみてください。

今この書評を書きながらほかの本を読んでいるのですが、めちゃくちゃ読みやすく感じて仕方がありません。

本当にスイスイ読めて読書がさらに楽しくなりました。

これはドラゴンボールの悟空が重力が地球の10倍の界王星で修行した後に、もとの重力で体が綿のように軽く感じたのと同じですね。

そしてその後、悟空はサイヤ人を倒しました!!

難解な本を読破するとこのような副産物があり、いつもとは違った成長をすることができるようです。

 

さて、この本の内容がよくわからなくても気に病む必要はありません。

東大で一番読まれた本」に選出されたこともある本なんですから。

繰り返し読んで自分のものにしていけばいいわけです。

もし、行動経済学のことが嫌いになりそうになったら次の本を読んでください。

この本が読めたらもうこっちのものです。

まずは自分が読んで楽しい本を読みましょう。